SCIENCE

なぜ、色は混ざらないのか

水の上に色を落とすと、色はふわっと広がります。となりに別の色を落としても、櫛でなぞっても、色どうしは混ざりません。髪の毛ほどの細い線になっても、くっきり分かれたままです。

waiの代表は、大学院で流体力学を研究していました。このページでは、マーブリングの「混ざらない」を、すこしだけ数式をまじえて説明してみます。

01浮かぶ

とろみをつけた水の上に絵の具を落とすと、絵の具は沈まずに、水面で丸く広がってうすい膜になります。広がるかどうかは、3つの表面張力のつり合いで決まります。

S = γ水 − ( γ絵の具 + γ境目 )
γ水
水の表面が、縮もうとする力
γ絵の具
絵の具の表面が、縮もうとする力
γ境目
水と絵の具がふれあう面(界面)が、縮もうとする力

γ(ガンマ)は表面張力です。水が外へ引っぱる力が、絵の具が丸くまとまろうとする力より強ければ(S > 0)、絵の具は自分から薄く広がっていきます。トルコのエブルでは、牛の胆汁を絵の具に少しだけ混ぜて、この広がり方を整えてきました。

02押しのける

広がった色のまんなかに、次の色を落とします。新しい色は前の色を押しのけて広がり、前の色はそのまわりで輪になります。でも、混ざりはしません。

1色目のふちが、中心から d のところにあったとします。まんなかに半径 r の2色目を落とすと、ふちは d′ まで押し出されます。水はほとんど押し縮められないので、落とした滴のぶんだけ、面積がそのまま増えるからです。

π d′2 = π d2 + π r2 ⟹ d′ = √d2 + r2
1色目(ふちまで d)
2色目(半径 r)で d′ へ
横に3色目
4色目

近くの点ほど大きく、遠くの点ほど少しだけ動きます。どの点も、それぞれ別の行き先へ1対1で移るので、色のさかいめが切れたり、重なったりすることはありません。

03引きのばす

水面に細い棒(櫛や針)を通すと、棒の近くの色ほど大きく引っぱられ、遠くの色はあまり動きません。このサイトの模様づくりでは、そのようすを次の式であらわしています。

Δ = z · λd + λ
Δ
色が動く距離
z
棒を動かした距離
d
棒の通り道から、色までの距離
λ
どのくらい広い範囲がいっしょに動くかを決める長さ。とろみが強いほど大きくなります

たとえば、棒のすぐそば(d = 0)の色は、棒と同じだけ動きます(Δ = z)。d = λ のところでは半分だけ。ずっと遠くでは、ほとんど動きません。

どの色も、棒と同じ向きに、横すべりするように動くだけです。だから形はのびても面積は変わらず、色のさかいめが切れたり重なったりもしません。

しま模様
棒を1本通す
交互に何本も

右の図は、棒を上下交互に通しただけ。これが「矢羽根」模様のもとです。

04渦をつくらない

コップの水をスプーンで混ぜると、渦ができて、色はすぐに混ざります。マーブリングで混ざらないのは、とろみのある液を、ゆっくり動かしているからです。その目安になるのが、レイノルズ数です。

Re = ρ U Lμ
ρ
液の密度(ロー)
U
動かす速さ
L
棒の太さや間隔くらいの長さ
μ
液のとろみ=粘度(ミュー)

μ が分母にあるので、とろみが強いほど Re は小さくなります。Re が大きい(およそ2000より上)と流れが乱れて渦ができ、小さいと、流れは層のように重なったまま、なめらかに動きます(層流)。

とろみ液を櫛でなぞるRe ≈ 0.5 水をスプーンで混ぜるRe ≈ 5000 0.01110010000 ← 層のまま、なめらかに渦ができて混ざる →
レイノルズ数 Re のものさし(目盛りは10倍ずつ)。点線のあたりから先で、流れが乱れやすくなります。

スプーンで水を混ぜると Re ≈ 5000(速さ 10 cm/s、大きさ 5 cm)。とろみのある液を櫛でなぞると Re ≈ 0.5(速さ 1 cm/s、間隔 5 mm、とろみは水の約100倍)。1万倍ほどのちがいです。

マーブリングの模様は、混ぜたのではなく、層のまま引きのばしただけ。色どうしはずっと「となりあっている」だけなので、細い線になっても、それぞれの色がそのまま残ります。

05計算できるのに、
二度と同じにならない

マーブリングの模様は、ここまで書いたように、かなりの部分まで数式で説明できます。

それでも、同じ模様は二度とできません。色を落とす場所が1ミリずれるだけで、櫛を通す速さがほんの少し変わるだけで、模様はまったく別のものになります。物理で決まるところと、人の手にしか決められないところ。そのあいだに、その人だけの表現が生まれると思っています。

トップページの模様づくりは、ここで紹介した「滴を落とす式」と「棒でなぞる式」を、ブラウザの中で1ピクセルずつ、時間を逆にたどって計算しています。色をえらんで、模様をつくってみてください。

模様をつくってみる

数値は、わかりやすくするための目安です。液の種類や温度で変わります。